内部監査の強化・推進のための提言

― 1999年2月2日 ― 日本内部監査協会内部監査強化・推進委員会

なぜ、いま提言を行うか

企業およびその他各種の組織体(以下、企業という)を取り巻く社会経済環境の激変によって、わが国の企業行動は、多くの変革を迫られている。企業が21世紀におけるグローバル社会を前提に活動していくためには、在来の不適切な社会通念や慣行から速やかに脱却し、システムに内在する欠陥を除去するとともに、新しいシステム造りを行わなければならない。

企業は、自己責任、透明なルール、情報開示を強調する市場メカニズムに基づく自由経済競争を前提に、経営諸活動を活発化し、永続的発展を図るため、環境問題への解決等グローバル社会に対応できるコーポレート・ガバナンスを確立し、積極的かつ公正な「経営行動力」とバランスのとれた健全な「経営監視力」とを両立させた活力ある経営システムを構築する必要がある。

「経営監視力」を果たす重要なひとつの機能として、内部監査がある。内部監査は、経営諸活動が合法的・合理的に行われているか、経営管理組織・制度が経営目的に照らして適切であるかを客観的に検証・評価し、その結果および改善案を直接、経営者に対して報告する経営管理機能である。それは、経営的観点から、内部統制の有効性の評価を行うために不可欠な機能であり、経営内のコミュニケーションを促進し、内部経営コンサルタントの役割を果たすものである。

この機能が適切かつ有効に果たされることにより、経営者は自己責任を遂行するために有用な経営評価手段を得ることになる。それゆえ、経営者は善良なる管理者としての注意義務を果たし、リスク管理を志向した責任ある経営を実行するとともに、株主代表訴訟等にも対応し得ることができる。

昨今、重大な不祥事や経営破綻の多発に対して、多くの知識人や専門家等は、原因の分析、対策の提示を行うとともに、グローバル社会における国際競争力を確保する観点からも、「経営監視力」の充実化のために、社外取締役、社外監査役等、外部からの役割を強調した法制度の強化を要望している。それに引き換え、"内部監査制度の強化"への要請は、ほとんどみることができない。

それは、わが国には、あるべき内部監査の普及・発展を目的として、1957年に「日本内部監査協会」が設立され、今日まで40年余にわたり、積極的な活動を続けてきているにもかかわらず、内部監査の有用性が一般に十分に理解されていないこと、また、内部監査の本質が企業内の経営評価手段であり、法制度化がなされていないこと等によって、消極的に扱われてきた事情によるものと考えられる。わが国の現状をみると、利害関係者を多く抱える大企業の中にさえ、内部監査制度を有しないものも存在している。

近時の深刻な事態の反省に立ち、社会的公正性に欠け、透明度の低い企業は今後存続し得ないとの認識のもとに、国際的に通用する経営管理システムを確立するためには、わが国の企業は、"自らを律する健全な仕組み"として、"内部監査の導入とその強化・推進"を積極的に図ることが急務である。

ここに、各界指導者・学識経験者、経営者、監査役・公認会計士、監督関係機関等に対して、広く本提言を行うものである

提言

各界指導者・学識経験者への提言
趣旨
各界指導者・学識経験者は、諸外国において広く活用されている内部監査制度を、わが国の企業においても整備・充実する必要性を理解し、内部監査の強化・推進を積極的に支援すべきである

  1. 各界指導者・学識経験者は、国際競争力を確保し、健全な経営を保持するために、必要不可欠な経営管理システムとして、諸外国の企業では内部監査制度が広く活用され、内部監査が企業の経営評価手段として機能していることを、積極的に理解すべきである。
  2. 各界指導者・学識経験者は、わが国の企業に対して、経営者が自らの経営責任を適確に遂行していることを、効果的に把握する経営 評価手段として、内部監査制度の導人とその強化・推進について、積極的に支援すべきである。

経営者への提言
趣旨
経営者は、自己の果たすべき責務として、内部監査制度を確立・強化し、有効に活用すべきである。

  1. 経営者は、経営諸活動の信頼性を確保し、透明性の高い経営を実現するために、企業内の独立した評定機能として、また、公正かつ客観的な立場における有用な情報収集と評価の手段として、内部監査制度を確立するとともに、積極的に活用する方針を企業内に明示し、実行すべきである。
  2. 経営者は、内部監査部門を自己直属の独立した組織とし、業種・業態・規模にふさわしい内部監査人の適正配置を行うとともに、日本内部監査協会が設定した「内部監査基準」の理念に基づいて監査を実施させ、その結果については、直接、内部監査部門から定期的に報告を求め、経営改善のための必要な施策を講じ、経営指導力を発揮すべきである。
  3. 経営者は、内部監査を積極的に活用することにより、経営諸活動に関する法令・定款・諸規則への準拠性の確認、経営管理組織・制度の信頼性の検証、業務運営の効率性・効果性の評価を行う等経営内の実状を十分に理解するとともに、経営方針が正確に伝達され、 経営上の責任が十分に果たせる状況にあることを把握すべきである。
  4. 経営者は、内部監査人として必要な識見と監査全般技術を習得させ、かつ、企業内の組織的独立性と監査判断の客観性を保持させるため、継続的に教育訓練を実施し、監査の品質と水準を高めるべきである。

監査役・公認会計士への提言
趣旨
監査役は、公認会計士とともに、監査効率と監査効果を高めるため、内部監査を積極的に活用し、監査役監査・公認会計士監査・内部監査の各監査制度相互間の密接な連携を図ることを推進すべきである。

  1. 監査役・公認会計士は、それぞれ監査を実施する際、その前提として、内部監査がその組織および運用において、有効に機能していることを積極的に確認すべきである。
  2. 各監査制度には、それぞれ監査上の限界があることを考慮し、それを相互に補完する支援体制として、監査役は、公認会計士・内部監査人とともに、情報交換等密接な相互の監査連携を図り、監査効率と監査効果を高めるべきである。
  3. 監査役は、自らの監査目的を達成するために、経営諸活動の状況を直接に把握し得る内部監査部門の役割を積極的に理解し、内部監査機能の有効な活用を図るべきである。
  4. 公認会計士は、自らの監査目的を達成するために、内部監査機能の有効な活用を図り、必要な場合には、内部監査制度の整備・充実 を図るよう積極的に指導すべきである。

監督関係機関等への提言
趣旨
監督関係機関等は、企業に対して、その利害関係者への有用な情報提供のため、内部監査実施の有無について、関係書類に開示させるべきである。

  1. 監督関係機関等は、上場、店頭登録等の証券取引法適用の公開会社に対して、上場審査基準により、内部監査実施の有無を有価証券報告書に開示させ、内部監査を実施していない場合には、その実施をするように指導すべきである。
  2. 監督関係機関等は、商法特例法適用の大会社に対して、内部監査実施の有無を営業報告書に開示させるように商法計算書類規則を改正すること等も考慮すべきである。
  3. 監督関係機関等は、私立学校振興助成法、労働組合法等、法令に基づく強制監査が実施される組織体に対して、内部監査実施の有無を各事業報告書に開示させるように指導すべきである。
  4. 監督関係機関等は、公的な資金を受け入れている組織体、その他監督官庁が明確な組織体に対して、内部監査実施の有無を各事業報告書に開示させるように指導すべきである。
<主要用語の解釈>
監査役(かんさやく)
この提言でいう「監査役」には、あらゆる組織体を対象にする関係から、監査役以外に 監事等をも含む用語として使用している。
監査連携(かんされんけい)
「監査連携」とは、経営者を中心に、監査役監査・公認会計士監査・内部監査がそれぞれ独立的であるとともに、相互に補完することによって、監査効率と監査効果を高めるために、定期的に情報交換等を行う機能的監査の実施が必要であり、健全な企業経営に貢献する監査には、密接な連携が不可欠であることを強調した用語として使用している。
監督関係機関等(かんとくかんけいきかんとう)
企業を直接的に管理、監督、指導する立場にある官公庁等の関係機関を一般的に表すために、「監督関係機関等」の用語を使用している。
企業(きぎょう)
この提言でいう「企業」は、営利組織体をはじめ、非営利組織体をも含むすべての組織体を対象とする用語として使用している。
強制監査(きょうせいかんさ)
法令によって強制的に実施される法定監査を「強制監査」といい、銀行業、保険業等に強制される監督官庁による監査以外に、証券取引法による公認会計士監査、商法・商法特例法による監査役監査、会計監査人監査、さらには私立学校振興助成法、労働組合法による公認会計士監査等がある。
経営監視カ(けいえいかんしりょく)
企業経営における「経営監視力」は、「経営行動力」と対で使用している用語であり、 単に検証、チェックという摘発的・批判的な感覚で使う狭い意味ではなく、経営の評価までも含む建設的・指導的な広い意味をもつ用語として使用している。
経営者(けいえいしゃ)
すべての組織体の最高責任者を意味し、社長、理事長、総裁、会長、組合長等、組織体の経営を実質的に支配しているトップを「経営者」の用語で説明している。
経営評価手段(けいえいひょうかしゅだん)
企業経営の内部管理のためには内部統制が必要であり、その有効性を評価する内部監査は、経営諸活動、経営管理組織・制度等の情報収集、検証、評価、意見表明を行うため、 企業内におけるコンサルタントの役割を果たす観点から、「経営評価手段」として位置付けている。
内部監査基準(ないぶかんさきじゅん)
日本内部監査協会が1960年に「内部監査基準」を作成・発表して以来、改訂を重ね、 1996年に最新改訂を行っており、それは、内部監査人が監査を実施する際には、準拠する有用な規範として、現在に至っている。 (※内部監査基準は、その後2004年に改訂を行った。)
内部統制(ないぶとうせい)
「内部統制」は、企業経営の内部管理手段として必要不可欠なものである。その概念にはさまざまなものがあるが、ここでは内部経営環境と内部統制組織から構成されるものとして解釈している。

<内部監査強化・推進委員会>

委員長 鵜澤 昌和 青山学院大学 名誉教授
副委員長 荒澤 建一 前・三菱商事株式会社 参与・監査部長
委員 天野 信三郎 三菱電機株式会社 顧問
委員 大舘 懌雄 日本発条株式会社 顧問
委員 大野 直 大阪ガス株式会社 理事・監査部長
委員 川島 勝利 NKK 監査部長
委員 霜垣 誠一郎 日本内部監査協会 理事長
委員 高田 正淳 京都学園大学 教授 経営学博士
委員 友杉 芳正 名古屋大学 教授 商学博士
委員 檜田 信男 中央大学 教授 商学博士
委員 別府 正之助 伊藤忠商事株式会社 監査部長
委員 山本 明知 淑徳大学 兼任講師
委員 渡辺 克郎 前・ソニー株式会社 監査部長
(順不同、敬称略 所属・役職名1999年1月29日現在)

会長 中村 清 日本内部監査協会
委員長 鵜澤 昌和 日本内部監査協会 内部監査強化・推進委員会
本提言は、1999年1月29日開催の日本内部監査協会・第112回理事会において承認されたものである。

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